馬の病気を学ぼう!〜蹄編(脚元に起こる怪我や疾患について)〜

馬の病気を学ぼう 蹄編

今回は、馬の第二の心臓とも言われている「蹄」に起こる疾患について書いていきたいと思います。

その前に、なぜ蹄が第二の心臓と呼ばれているのかを説明していきます。

目次

なぜ、蹄が第二の心臓と呼ばれているの?

当たり前ながら、蹄の内部まで血管が張り巡っており血液が流れています。

馬は体が大きいので、心臓の動きだけでは蹄や心臓に遠い箇所まで血液を送り届けられなかったり、古い血液を心臓まで戻すことができません。

そこでその循環を補ってくれるのが蹄です。

地面に蹄がついたときに蹄の柔らかい部分(蹄踵部:ていしゅうぶ)が外側に広がり、地面から離れると広がっていた部分が元に戻る…

この伸縮運動がポンプのような役割をし、血液循環の一役を担っています。

ちなみにこの蹄の伸縮運動のことを「蹄機作用(ていきさよう)」と言います。

馬が歩けなくなると命の危機に陥ると言われるのは、この蹄機作用が行われなくなることで古い血液が留まり組織が壊死してしまう事が要因の一つです。

蹄の重要さをなんとなくわかっていただけたかと思いますので、ここから蹄に起こる主な疾患、

  • 裂蹄(れってい)
  • 蹄叉腐爛(ていさふらん)
  • 蟻洞(ぎどう)
  • 挫跖(ざせき)
  • 蹄葉炎(ていようえん)

この5つを説明していきます。

裂蹄(れってい)

馬券ファンや一口馬主の方もあまり聞き覚えのないワードかと思われる「裂蹄」。

読んで字のごとく蹄が割れる病です

原因としては、乾燥(冬場等におこりやすい)、過度に湿ったまま放置、栄養不足、長い間削蹄されていない、遺伝からくる蹄の弱さ、外的要因…などがあげられます。

症状が軽い場合は跛行が見られないケースもありますが、重度な裂蹄になると出血をしたり、そこから感染症を引き起こしたりするので、跛行をしていないからと言って無視はできません。

原因を読み、お察しの方もいらっしゃると思いますが、ほぼほぼが人間のケア不足です

乾燥している期間は蹄油(ていゆ)という蹄に塗る油を塗り乾燥を防いだり、定期的に削蹄をし、その時に蹄を見て持ったりと減らせるリスクは減らすに尽きます。

予後は比較的良好ですが、再度亀裂が入り再発してしまう事もあります

蹄叉腐爛(ていさふらん)

こちらもあまり聞きなじみはないかもしれません。

そもそも「蹄叉」とはなんぞやと言う説明から、蹄の裏側を見た事がないという方も少なくないと思いますので、まずは…

パックマンが上を向いて口をあいている状態を想像してください。

その口のところが蹄叉です。

蹄裏の画像を調べると言いたいことがわかるかと思います(笑)

その蹄叉の凹部分に汚れが詰まったままになってしまうと、そこから腐食してしまい化膿し悪臭を放ったり、重度になると跛行を起こしたり、そこから感染症を引き起こしたりします。

これも人のケア不足が原因じゃないか…と思った方、

正解です。

調教後や放牧後などに裏堀りという蹄裏のお掃除が半端だったり、馬が暮らす馬房内の環境が悪かったり、放牧地の環境が悪かったり等々。

日ごろからちゃんとケアしていればなりにくい病気です。

蟻洞(ぎどう)

最近ですとウインブライトが患い、長期の休養を余儀なくされたのが記憶に新しいところ。

それでもあまり聞きなじみはないかと思われます。

こちらも読んで字のごとく、症状が蟻の巣のように見える事からきています。

ちなみにですが、馬産地では「砂のぼり」と呼ばれることもありますが、厳密に言えば蟻洞とは発症する箇所が違うため、別の病です。

今回は蟻洞になる要因から触れていきたいと思います。

蟻洞が起こる要因

他の病気の影響

何らかの病気の影響で蹄の表面にあたる蹄壁(ていへき)が脆くなり白線裂(はくせんれつ:蹄壁の内側にある蹄底との境にある白線の角質が腐敗や崩壊することで、蹄壁と蹄底が理解してしまう病)蹄葉炎を発症し、そこから蟻洞を発症することがあります。

飼料の問題

調教量に対して飼料が不足することで、角質の形成がうまくできなくなってしまい蟻洞になるケースや、その反対に飼料の与え過ぎ(主に炭水化物)により、蹄葉炎発症からの蟻洞というパターンもあります。

飼育環境の問題

馬房内の敷料(藁やおがくず等)が尿により不潔な状態だったり、湿った放牧地で蹄の角質がふやけて蟻洞を発症したり、常に蹄底にボロ(糞)や不潔な敷料が詰まっている状態が続いていると、白線裂をおこし蟻洞に繋がってしまいます。

力学的負荷

蹄壁に極端な強い力や偏った力が長時間かかったり、削蹄を怠り、蹄の先端がが伸びすぎてしまい、着地時や地面を蹴りあげる時に先端に強いストレスがかかることで発症してしまいます。

微生物の関与

細菌や真菌が蹄角質を浸食し、蟻洞を起こしてしまうパターン。

蟻洞に気が付けずに浸食がどんどん進んでしまっていることがあるので、たちの悪いものです。

次に3つある蟻洞の種類について説明していきます。

蟻洞の種類

単純型蟻洞

これは蹄壁が分離してしまう蟻洞

パッと見何事もないだけに、悪化してから気が付くことも少なくありません。

白線裂型蟻洞

蟻洞の要因の1つ目でも触れたように白線裂から起こってしまう蟻洞です。

蹄葉炎型蟻洞

これも要因で触れさせていただいたように、蹄葉炎を発症後に起きてしまう蟻洞です。

ここまで読んでいただき、おわかりいただけたかと思いますが、かなりエグい病気です。

治療法も疾患部まで蹄を切り、乾燥させ薬で消毒後に患部を樹脂やエクイロックス(接着装蹄)で埋める方法などがありますが、とにかく新しい蹄が伸びてきてくれるの待ちになってしまうため、そこから軽めの運動~乗って調教…という流れになるので、レースに復帰するまでには相当な時間を要してしまいます

挫跖(ざせき)

ここ最近ですと海外遠征をしたエピカリスが、ベルモントS出走前に挫跖により除外されてしまったのが記憶に新しいですかね…。

人に例えると捻挫のようなものと言われますが、実際は少し異なり、走った際に後肢の蹄の先端が前肢の蹄底にぶつかってしまったり、石やウッドチップなどを踏みつけてしまったときに蹄底に炎症(内出血)が起きてしまうことを挫跖と言います。

これに関しては人のせい…と言うわけではなく、寝ているときに蹄同士をぶつけても起こってしまう事があるので、特別な予防策がありません

(走路や歩道に石などが落ちていないように掃き掃除をちゃんとやっておく事や、石などを見つけた際に横に放っておく等は最低限の予防策)

発症して間もないときは地面に着けないくらいの跛行を見せることもありますが、1〜2日たったら何事もなかったかのように改善していることもあります。

上記のような事もあるため診断は難しく、削蹄をした際に血豆がみつかり「挫跖だったのか」という事も

炎症を起こしているという事だけに、冷やしたり、消炎剤を投与したりするのが治療としては一般的。

予後に関しては、蹄の薄い馬や柔い馬は蹄の成長待ちになってしまうので長引いてしまう事もありますが、比較的には良好で再度同じような事が起こらない限りは再発の心配もありません

蹄葉炎(ていようえん)

その昔はテンポイントや父として数多くの名馬を輩出したサンデーサイレンス、最近ではウオッカ等が最終的にはこの病が原因で命を失っています。

おそらく聞き覚えのある方も少なくはないはずです。

当記事の最初の方に、蹄が第二の心臓と言われている理由として「蹄の伸縮運動が血液の循環の一役を担っている」と説明しましたが、他のケガや病気(骨折やフレグモーネなど)により脚を動かせなくなり、血液の循環が滞ってしまうと、蹄に古い血液が留まり蹄葉炎の発症につながってしまいます

他にもこの病になってしまう原因として、濃厚飼料(燕麦や大麦や乾燥トウモロコシなど)の過剰摂取感染性の下痢や肺炎疝痛や子宮炎などで感染症に続いて発症する敗血症性の蹄葉炎、馬メタボリック症候群などがありますが、蹄葉炎になる原因は多様で発症するメカニズムは完全には解明されていません

次にそもそも蹄葉炎とはなんなのかをザックリ説明していきます。

蹄壁から蹄底にかけて蹄骨の間にある「葉状層(ようじょうそう)」という組織が蹄骨と蹄壁、蹄底を繋ぎ止めてくれています。

この葉状層が先に解説したような事が起因で剥離性の損傷を起こしてしまい、蹄骨がはがれ落ちてしまう病気です。

文字にするだけでもその痛みは半端のないものですね…。

程度にもよりますが治療法もあり、炎症を抑える薬品の投与特殊な蹄鉄の装蹄深屈腱を切断し蹄骨変位の予防をする方法などがあります。

もちろん上記の治療をしても良化が見られなかった場合には、馬自身も苦しく辛い思いをしているので、安楽死という選択をしなければなりません。

さいごに

今回ザックリとなるべくわかりやすくを心がけ、蹄の5つの疾患について解説させていただきました。

人間の管理不足による疾患も少なくないだけに、常にケアして丁寧な手入れを心がけることは基本。

それでもなお、防ぎきれない病があるのも事実で、これだけ馬学が進歩をしていても完璧には治しきれない場合もあるだけに難しいところですね。

脚元に起こりうる主な疾患はいったんここまでで、次回からはまた別の病や疾患について更新していきたいと思います。

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